大林宣彦監督と幸福な映画体験
2020年4月10日、大林宣彦監督が亡くなりました。
実は、私一度だけ大林監督を生で見たことがあって、2010年6月に今はなき吉祥寺バウスシアター(これも、もうあと十数年もすれば「あんなところに、そんな映画館あったんだ」的になるんでしょうね。)の第三回爆音映画祭、TRASH-UPセレクトの回で上映した監督の処女作『HOUSE』の爆音上映でした。
大林監督の映画は「時をかける少女」くらいしか見たことがなかったので、初めて見る『HOUSE』は衝撃的でした。
それと同時に、たぶん公開時1977年の映画界では、きっとこれは無稽荒唐なもの、幼稚な作品として扱われたんじゃないかなぁ、ということも予想できた。
無茶苦茶な映画なのは紛れもない事実ですが、もっと、凄い強度のある映画なんです。自由すぎる展開や撮影手法は、むしろ今の感覚に近い気がしますしそもそも30年以上後に再上映され、それでも新鮮に感じる映画ってやはりすごいですよね。
そして上映終了後、なんとサプライズで大林監督が客席から登場。
会場の興奮は最高潮。
監督から少しだけコメントがあり、(確か「当時日本ではあまり評価されなかったけど、海外で若者から称賛され、いまこうしてようやく日本でも評価されるようになった」みたいな話しだったと思う)そのまま大林監督をとり囲む群衆が、吉祥寺駅まで続きました。(監督、あの時電車で帰った?)
そんな貴重な体験をさせてもらった爆音映画祭でしたが、大林監督の作品は、2014年12月に新宿ミラノ座で『時をかける少女』も見ることができました。
ミラノ座の閉館にともなうイベントで鑑賞。
あんな巨大な劇場で原田知世を眺めるなんて、きっともう二度とできない経験。
たったまだ5年前の出来事ですが、バウスとともにどう考えても「幸福な映画の時代の終わり」ぽいエピソードで悲しいですね。。。
『時をかける少女』の公開当時、原田知世に完全に打ちのめされた男子がたくさんいたらしいですが、おそらくその当時自分が10代だったら、私は「原田知世派」よりむしろ「富田靖子派」だったかもしれません。
昔の日本映画って、チラシとかで相当損している場合がある。この白塗りの富田靖子のジャケで期待値がぐっと下がってしまい、尾道三部作の中で唯一、見逃してた作品。
その『さびしんぼう』を昨日、大林監督の追悼を込めて鑑賞いたしました。
これが、むちゃくちゃよかったです。。。
人によっては、前半のズッコケ三人組のドタバタ喜劇をどうこらえるか、少しだけ辛抱が必要かもしれませんが、それを過ぎると後半にグッと映画のテーマが際立っていきます。
富田靖子が二役演じているわけですが、個人的には白塗りの富田靖子が現代でも通じるチャーミングな魅力にあふれており、かつ10代とは思えない堂々とした演技に打ちのめされます。
『時をかける少女』も好きですが、このドタバタ喜劇の中にとろけるようなロマンスやほろ苦さなどを盛り込む感じは、むしろ大林監督の真骨頂かもしれません。
そして、何より何度でも巻き戻して見返したくなるような素晴らしいカットがたくさんあり、尾道の風景とともに映画でしか味わえない体験ができます。
『HOUSE』や『時をかける少女』、晩年の作品も含めて多くの傑作を生みだしておりますが、この『さびしんぼう』もかなり良いです。もはやノスタルジーの代名詞。泣けます。
Sabishinbou 「さびしんぼう」 - 1985 - Trailer 予告編
ちなみに、80年代の富田靖子の魅力については数年前からずっと気になってます。市川準監督の『BU・SU』とこの2作は二強ですね。富田靖子についてはまた改めて。
遺作となった『海辺の映画館―キネマの玉手箱』も見たいですし、晩年の作品も見逃しているものがたくさん。まだまだこれから見ていこうと思います。
大林宣彦監督、謹んでご冥福をお祈りします。