目盛りメモリーズ(旧One Click Say Yeah 2020)

音楽、映画、その他日常の生活からはみ出たもの、または日常そのもの

映画『息の跡』

2/18(土)ポレポレ東中野ドキュメンタリー映画『息の跡』を観てきました。小森監督の舞台あいさつ付!

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映画『息の跡』公式サイト

舞台挨拶の様子。

感想。

とてもすばらしかった。色々多くて書きたいことの3割も書けないと思う。

 

蓮實重彦さんの受け売りみたいになってしまうけど、鑑賞中からやたらと随所で"音"が印象的な映画だなと思いました。

この映画の主人公、たね屋の佐藤さんが店内で話しているときに窓越しに絶えず車が行き来する音。意図的に誇張しているのかなとも思ったが、震災後の土木作業の車が多いことからもこういう日常音なのだろうと推測できる。

あとはセロハンテープがめっちゃ出てくる。佐藤さんは何でも手作りのD.I.Y精神の持ち主。セロハンのビーっ、という音ももの凄く誇張されて心地よい。

そして多くの人が述べている通り、佐藤さん本人が作った震災の記憶を綴った英文の本を読むその声が、すごくいい。声の質がいい、というのかな。ミュージシャンからしてみたらうらやましい声。しかも驚くべきなのは書くのも読むのも殆ど独学。発音があってるかどうか私には分からないが「伝えたい」という思いが声に直結しているからか、とても説得力のある発音に聞こえる。

他にも、夜のお祭りで人々が集まるシーン、ここでは次第に音だけが普段の音にシフトされ、やがて無音となる。ここは数少ない意図的な加工が加えられていてちょっと霊的な雰囲気のする場面で興味深かった。

 

私は単なる映画ファンなのであまり技術的なことは分かりませんが、この作品が持つ強度はいったいどこから来てるんだろうなと、考えてました。もちろん震災についての映画であることは間違いないのでしょうが、同時に「人間が何かを世に残すこと、記録することとは一体何なのか」という永遠のテーマと真っ向から向き合っている作品であると思いました。

主人公佐藤さんもまさに「記録すること」に対して真摯に模索し続ける一人の表現者(しかし本人はそういう置き方はせず「ただのたね屋だ」というのが素晴らしい)であり、見方によってはこの映画は被災した一人の表現者とカメラを向ける表現者=監督、のガチンコ勝負っぽいところに、なんというかペシミスティックでウェットな方向ではなく、ものすごく硬派な映画という印象を与えます。表面上の会話や画は一見とても穏やかですけどね、その根底に流れている部分、が。

 

私も音楽を志していたので「記録」や「作品を作ること、残すことは一体何なのか」ということを問答しまくっていた時期があります。それは音楽という産業・エンターテイメントの部分とはまた別の観点ですね。恥ずかしげもなく言ってしまえばもっと「歴史的観点」とでもいいますか。

しかしながら日常の生活の中でそういうことは埋もれていくものです。目の前の決められた仕事、今日どこまでやるか、明日何をするか、週末はどう過ごすのか。こういう日々のルーチンのなかで「記録とは何か」ということを絶えず問答することは多くの場合不可能です。

しかし出来ないからといって、そのテーマがなくなってしまう、ということはないと思っています。ましてや震災という出来事、人の命が失われること、残された人がそれによって変容せざるを得ないのは避けられない事実なので、それらをまとめて社会的な出来事と呼ばれるわけで、社会は個人の集合体であることを改めて気づかされたり、あれ、話ズレた?

 

映画『息の跡』は登場人物も少ない、ものすごい1点にフォーカスしまくった映画です。しかしながら、この超ズームアップした作品から私たちは多くのことを思い起こすことができるでしょう。それは、宗教に頼ったり、誰かを悪者に吊し上げることで心が安らいだりできるような安易なものではありません。我々は佐藤さんのように絶えず問答を繰り返しながら、手を動かし頭を動かし続けなければならないことに改めて気づかされます。そして、それを何かしらの形にすることが、新たな別の誰かにそれを託すことになるのです。

 

私は小森監督と2009年に美学校の友人を通じて知り合い、彼女の美学校時代の卒業制作と、東京芸術大学時代の作品に参加させていただきました。このすばらしい映画と監督との出会いを通じて、私も粗ぶりながら、生きることをやっていこうと思います。

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ちなみにこの日、5年ぶりに『the place named』も鑑賞してきました。この時のカメラの感じとかテーマが、今回の作品に結実している感じがしました。

小森はるか『the place named』 - One Click Say Yeah 2017