目盛りメモリーズ(旧One Click Say Yeah 2020)

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Yo La Tengo「yo la tengo and then nothing turned itself inside-out」(2000年)リイシュー盤

yolatengo

PAVEMENTのラスト作「TERROR TWILIGHT」のデラックス・リイシューに続き、購入しようと思っていたYo La Tengoの傑作「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」のリイシュー(オリジナルは2000年、リイシューが2020年)を購入した。

私は、幸運にもYo La Tengoの最高傑作であるこのアルバム発売直後のライブを2000年のフジロックで見たので、その時のことを書こうと思う。


Yo La Tengoをフジのレッドマーキーで。もうそれだけで最高なんだけれど、この時の体験は今でも自分の生涯ベスト5に入る至福のライブだった。
1曲目「Our Way To Fall」が始まった瞬間、まさに「その場の空気が変わる」とはこのことで、音楽によって現実の空間が全く異世界になってしまうような、陳腐な小説に出てきそうな表現が現実にマジで起こった奇跡!みたいな、そういう不思議な体験をしたというのが当時の印象だった。
しばらく経って考えるとそれはこの上ないカタルシスであり、このライブを経験する前とした後の自分自身は確実に異なる何かに変わった、そんな気分だった。

その後彼らの単独ライブなど何度か見て素晴らしいライブもいくつも見てきたが、2000年のフジロックを超えることはなかったし、結局そういうライブは容易に出会えるものではない、数少ない貴重な経験だったんだなと、改めて感じている。

 

同じ2000年のレッドマーキーに出演した若き日のゆらゆら帝国坂本慎太郎もその時のライブの素晴らしさを伝えている。

アルバムに話を戻すと、リイシュー盤はボーナスディスクがついていて、未発表曲やEPに収録されていた曲が聴ける。「Danelectro」は本当にダンエレクトロのベースを購入した直後のセッションだったらしい。

この作品は1997年の「I Can Hear The Heart Beating As One」と並ぶ傑作、というのはファンの中でも意見が一致していると思うが、前作が所謂インディー・ギターロックとかシューゲイズ的な興奮を得られるのに対し、本作は全体が徹底的にアンビエントな作りで、当時の所謂ポストロックとか音響派とも呼応するサウンドの質感に感じた。しかし当時の印象よりも、20年経った今でも全く色褪せない楽曲に、熟成しまくったワイン感というか、時代を超えた作品になったんだなあと感じている。


何かの拍子にこの文章を読んだ人でこの作品に触れたことがないなら、今すぐにでも聴いて欲しい。できればアルバム通しで。ロックとかオルタナとかを超越した豊かな音楽が在ります。

 

印象的なジャケットの写真はグレゴリー・クリュードソン(Gregory Crewdson 1962- US ) という人で、ちょっと怪しげな映画のワンシーンのような写真を撮る人。CDやLPを買うことが年々減ってきているが、こういう新しい発見に出会えるだけでも、CDを購入し直すことは良いことだ。

 

それにしても、PAVEMENTの「TERROR TWILIGHT」が1999年でYo La Tengoの本作が2000年初頭。この頃ってすごくメランコリックな作品が多い気もするけど、オルタナとかインディーロック・バンドがある種のケジメというか、ネクストレベルに向かう重要な作品を数多くリリースしていたり、どこか感傷的な作品が多かったのは偶然とは思えない気がする。

この辺りはこの人のBlogに熱心に書かれているので参考までに。Flaming Lipsの『The Soft Bulletin』とかもね、個人的にも思い入れの強い作品ですのでまたどこかで振り返りたいです。