目盛りメモリーズ(旧One Click Say Yeah 2020)

音楽、映画、その他日常の生活からはみ出たもの、または日常そのもの

植本一子 碇雪恵 柏木ゆか『われわれの雰囲気』

植本一子 碇雪恵 柏木ゆか『われわれの雰囲気』を読んだ。

 

いわゆる自費出版というやつなので、音楽でいえばすなわちインディーズリリースといえる。
自費出版の本を読む」って、メジャーな本を読み倒してその果てに辿り着く自費出版、と勝手にイメージしていたけど音楽を聴くときは別にメジャーな音楽を全部聴いた上でのindieってわけではなく「自分にとってしっくりくりもの」がたまたまindieが多かっただけ。90年代〜00年代はある程度indieという名のバリューがあったはずであるが、そもそも今やその曲がメジャーかインディーか、なんて気にして聴く意味もほとんどない気もする。。。なんて思うわけだから、本だって、自分のとって面白い、しっくりくることが何より重要である。
そんなことを考えるいい機会になる一冊でした。

 

この本も「仲の良い3人」のうち1人が突然の怪我で意識不明の重体になった時「待つ」ことになった友人はどんなことを思い、どんな風に日々を過ごしているか、という極めて個人的な、インディーらしいテーマの本。が、これがとても読み応えありました。まずこれが実話であるという点は重要である。あまり体験したことのないエッセイであり、こうまとまった形で「友人を待つ側&入院した側」を読むこともないので、とても興味深い内容でした。

 

著者の3人のうち2人は一方的に知っているのでなんとなく想像しなが読めたのも読み応えがあった一因だろう。

大怪我で意識不明となりその後回復した柏木ゆかさんは、私の旧来のバンド仲間である濱田氏の元同僚。知人の知人とはいえ、無事日常生活を取り戻せるまで復活し、こういう形で本として残るって何か凄いことだよな、とシンプルな感想。

回復を待つ友人のひとり、植本一子さんは3人の中で1番有名かと思う。写真家であり著作も多く出している。ECDさんの奥さんというで私もかなり前から存じ上げております。
ちなみに、今年に入り、妻が植本さんの本を突然読みまくっていて、すでに家には植本さんの本が山積み状態。その中の一端で妻から借りたのがこの本を読んだきっかけであった。

 

話は変わるが、2018年のECDさんが亡くなった直後にECDか植本さんの本、いずれか読みたいと思い二子玉川の蔦屋書店に行ったところ、いくら探してもECDも植本一子さんも一冊も置いてなかった。平積みとまではいかなくとも、こんなタイミングで本を一冊も並べない蔦屋書店って、本屋としてどうなの?とブチギレした記憶がある。
その出来事をきっかけにあの空間は空虚な場所だというイメージを拭えず、以降本を買いに行くことは一切なくなりました。。。

 

植本さんの文章は文字がとにかく多いが、本当に細かいことまで書いているので、植本さんがしゃべっていることをそのまま読んでいるようだ。実際に彼女が話す言葉と文章には差があるはずなので一方的な印象に過ぎないが、これだけひっかかりなく、スラスラ読める文章を書けるというのはとても凄いことだと思っている。

唯一知らなかった碇雪恵さんという方はライターで、芸人とかインタビューしたり、WEBでちょっとした記事を書いている人のようだ。碇さんは植本さんとは対照的でものすごく言葉を選んで何度も書き直しているような印象だが、友人と連絡が途絶えた期間の不安や狼狽、彼女との思い出など、短いながらもエッセイストとしての才能を感じた。

 

先日、10年ぶりくらいに青山ブックセンターに行った際に、同じく自費出版で製作された碇雪恵「35歳からの反抗期入門」を見つけて思わず購入。(青山ブックセンターには、蔦屋書店にはなかった植本一子さんの本も当然たくさん置いてあり安心した。)

 

「35歳からの反抗期入門」は、日常の様々なことにNOを叩きつけるパンクな側面もありつつ内省もしているので、ただのわがままでもなく、男性の自分が読んでも共感できる部分が多い。35歳という括りより、フリーランスという職業を通して、特に女性の視点で自分の価値観や好きなこととどう付き合っていくか、という意味でためになる本である。おっさんの自分が読んで何故ためになってるかは自分でも分からないが。。。
「花束みたいな恋をした」にめっちゃキレているのが面白かった。

植本一子 碇雪恵 柏木ゆか『われわれの雰囲気』

碇雪恵『35歳からの反抗期入門』